Director's Voice ORIHICA表参道クリエイティブ・ディレクターサリーム・ダロンヴィルからのメッセージ

Voice.25 新しい日本の創造的思考の芸術


オリヒカが今回コラボパートナーに選んだのは、トミタ・ジュン氏。一級建築士の資格をもつ建築家であり、プロダクトやグラフィックデザインを手がけるレーベル『aTIMONT』の主催者である彼は、オリヒカのロゴデザインを手がける人物でもある。オリヒカのことを知り尽くし、ブランドにとって必要不可欠な存在のトミタ氏は、美しいブラックシャツを生み出した。デザインの理由やこだわり、そしてそのベースにあるファッションへの想いを、サリームと2人で語り合ってもらった。

気配りが生む高いテクノロジー
日本特有の強みは必ず評価される

Saleem d'Aronville(以下Saleem)「コラボアイテムのデザインをしてくれてありがとう。いいものができたと僕も大満足だよ。このシャツはどんなことを考えながら作ったんだい?」

Jun Tomita(以下Jun)「思い通りのものを形にしただけだよ。『究極のこだわりシャツとは?』っていうオリヒカからの投げかけに、僕が出した答えは"JAZZ WARE"。様々なデザインを手掛けているうちに趣味でJAZZ PLAYをやることになった僕には、TPOと実用性を追求した機能的なシャツが"究極のこだわりシャツ"だったんだ」

Saleem「このたくさんのポケットは、その"JAZZ WEAR"としてのポイントなんだね?」

Jun「もちろんさ。手ぶらでいながらも、必要なものはちゃんと身近にある。そんなための工夫だよ。携帯用やペン差し、内側には現金を入れておくための隠しポケットも作ったよ。そして"JAZZ WEAR"というこだわりのひとつ、ピック用のポケットも仕込んだんだ」

Saleem「一見シンプルなブラックのシャツなのに、いろんなところに発見があるデザインだね。その発見を見つけるたびに楽しくなるよ」

Jun「ブラックを選んだのにも理由があるんだ。年代問わずどんな人にも似合って、コーディネートを選ばず、フォーマルにも使えるのはこの色しかない。デザインはとことん凝っているけれど、見た目はクールでシンプル。そんな印象に仕上がるのも、ブラックだからこそなんだよ」

Saleem「今回作ってみて、ファッションのデザインとJunの仕事であるプロダクトデザイン、君にとって2つは別のものだったかい?」

Jun「同じだよ。僕がいつも気をつけていることは、快適な、よりよいものを作ること。それだけだからね」

Saleem「確かにそれを感じるよ。胸ポケットに採用したマジックテープは、とてもプラティカルだよね。日本のシャツには、ありそうであまりないディテールだと思うよ」

Jun「"マジックテープ"って、普通の日本人はチープだと感じるからあまり使われないんだよ。でも僕たちデザイナーにとっては、とても便利なものとして存在するんだ。物が落ちる心配もないし、フラットだし、開閉がラク。こんないい素材を使わない手はないよ。これは"ファッションのどこに重きをおくか"という考え方の根本的な違いだね」

Saleem「そうだね。違うといえば、ヨーロッパのデザイナーに比べて日本のデザイナーはステータスを持ってないと思うんだけど、なぜだろう?」

Jun「日本人はヨーロッパの物を好むからね。ファッションの中心は東京じゃなく、ロンドン、ニューヨーク、パリだと思うよ。昔、日本のファッション業界ではDCブームっていうのが起こったことがあってね。国内のデザイナーが高く評価された過去の時代だよ」

Saleem「僕は、ヨーロッパ人に比べて日本人はテクノロジーや文化力も進んでいると思うのに、日本人自身は自分たちをそうみていないよね」

Jun「日本人は基本的に自分を分析するのが苦手だから。でも、技術や文化といった部分で自分たちが何を携えているのか、僕はちゃんと知っておくべきだと思うよ」

Saleem「そうだね、日本人はめったに自分のことを自分で褒めたりしないなぁ」

Jun「日本という国は"謙虚=美しい"という考えに基づいているんだよ。表現しないというマナーのルーツは、どうやら儒教の教えからきているらしいけど。でも、その価値はもう実用的じゃないと思う。国際的なスタンダードに合わないからね。日本人はあまりに静か過ぎて損をしている気がするよ。もっと"表現する"ことを学ぶべきだよ」

Saleem「今、世界中が不景気の波にのまれているけれど、日本を前進させるのはJunがいうような、新しい考えや価値を持った新しい日本人なんじゃないのかな」

Jun「そうだね、古いやり方は消えて、新しい日本人がどんどん繁栄していくと思うよ。彼らはきっと、新しいマーケットをどんどん切り開くだろうからね」

Saleem「この不況の中では、デザインに対するステータスはもはや飽和状態だよ。それは日本だけでなく世界中においても同じことだね。だから今こそ日本人は、自分たちが潜在的に持つ文化やデザインの素晴らしさに気づくべきだと思うよ」

Jun「同感。そして、苦手とする表現方法は海外から学んで取り入れるべき。そうすれば国際的にも国内的にも、公平な評価を得られるはずだよ。僕は今が、その絶好のチャンスだと思うね」

Backnumber

トミタ・ジュン氏とサリーム

JAZZWARE


サリーム・ダロンヴィル

英マンチェスター大学卒業後、マルベリー社やマッキントッシュ社でクリエイティブディレクターを歴任。その後、英国貿易産業省のエクスポートプロモーターとして、数多くの英国人デザイナーや英国ブランドの日本進出をサポート。2003年よりオリヒカのクリエイティブディレクターに就任。

Director's Voice ORIHICA表参道クリエイティブ・ディレクターサリーム・ダロンヴィルからのメッセージ

Voice.25 新しい日本の創造的思考の芸術


オリヒカが今回コラボパートナーに選んだのは、トミタ・ジュン氏。一級建築士の資格をもつ建築家であり、プロダクトやグラフィックデザインを手がけるレーベル『aTIMONT』の主催者である彼は、オリヒカのロゴデザインを手がける人物でもある。オリヒカのことを知り尽くし、ブランドにとって必要不可欠な存在のトミタ氏は、美しいブラックシャツを生み出した。デザインの理由やこだわり、そしてそのベースにあるファッションへの想いを、サリームと2人で語り合ってもらった。

気配りが生む高いテクノロジー
日本特有の強みは必ず評価される

Saleem d'Aronville(以下Saleem)「コラボアイテムのデザインをしてくれてありがとう。いいものができたと僕も大満足だよ。このシャツはどんなことを考えながら作ったんだい?」

Jun Tomita(以下Jun)「思い通りのものを形にしただけだよ。『究極のこだわりシャツとは?』っていうオリヒカからの投げかけに、僕が出した答えは"JAZZ WARE"。様々なデザインを手掛けているうちに趣味でJAZZ PLAYをやることになった僕には、TPOと実用性を追求した機能的なシャツが"究極のこだわりシャツ"だったんだ」

Saleem「このたくさんのポケットは、その"JAZZ WEAR"としてのポイントなんだね?」

Jun「もちろんさ。手ぶらでいながらも、必要なものはちゃんと身近にある。そんなための工夫だよ。携帯用やペン差し、内側には現金を入れておくための隠しポケットも作ったよ。そして"JAZZ WEAR"というこだわりのひとつ、ピック用のポケットも仕込んだんだ」

Saleem「一見シンプルなブラックのシャツなのに、いろんなところに発見があるデザインだね。その発見を見つけるたびに楽しくなるよ」

Jun「ブラックを選んだのにも理由があるんだ。年代問わずどんな人にも似合って、コーディネートを選ばず、フォーマルにも使えるのはこの色しかない。デザインはとことん凝っているけれど、見た目はクールでシンプル。そんな印象に仕上がるのも、ブラックだからこそなんだよ」

Saleem「今回作ってみて、ファッションのデザインとJunの仕事であるプロダクトデザイン、君にとって2つは別のものだったかい?」

Jun「同じだよ。僕がいつも気をつけていることは、快適な、よりよいものを作ること。それだけだからね」

Saleem「確かにそれを感じるよ。胸ポケットに採用したマジックテープは、とてもプラティカルだよね。日本のシャツには、ありそうであまりないディテールだと思うよ」

Jun「"マジックテープ"って、普通の日本人はチープだと感じるからあまり使われないんだよ。でも僕たちデザイナーにとっては、とても便利なものとして存在するんだ。物が落ちる心配もないし、フラットだし、開閉がラク。こんないい素材を使わない手はないよ。これは"ファッションのどこに重きをおくか"という考え方の根本的な違いだね」

Saleem「そうだね。違うといえば、ヨーロッパのデザイナーに比べて日本のデザイナーはステータスを持ってないと思うんだけど、なぜだろう?」

Jun「日本人はヨーロッパの物を好むからね。ファッションの中心は東京じゃなく、ロンドン、ニューヨーク、パリだと思うよ。昔、日本のファッション業界ではDCブームっていうのが起こったことがあってね。国内のデザイナーが高く評価された過去の時代だよ」

Saleem「僕は、ヨーロッパ人に比べて日本人はテクノロジーや文化力も進んでいると思うのに、日本人自身は自分たちをそうみていないよね」

Jun「日本人は基本的に自分を分析するのが苦手だから。でも、技術や文化といった部分で自分たちが何を携えているのか、僕はちゃんと知っておくべきだと思うよ」

Saleem「そうだね、日本人はめったに自分のことを自分で褒めたりしないなぁ」

Jun「日本という国は"謙虚=美しい"という考えに基づいているんだよ。表現しないというマナーのルーツは、どうやら儒教の教えからきているらしいけど。でも、その価値はもう実用的じゃないと思う。国際的なスタンダードに合わないからね。日本人はあまりに静か過ぎて損をしている気がするよ。もっと"表現する"ことを学ぶべきだよ」

Saleem「今、世界中が不景気の波にのまれているけれど、日本を前進させるのはJunがいうような、新しい考えや価値を持った新しい日本人なんじゃないのかな」

Jun「そうだね、古いやり方は消えて、新しい日本人がどんどん繁栄していくと思うよ。彼らはきっと、新しいマーケットをどんどん切り開くだろうからね」

Saleem「この不況の中では、デザインに対するステータスはもはや飽和状態だよ。それは日本だけでなく世界中においても同じことだね。だから今こそ日本人は、自分たちが潜在的に持つ文化やデザインの素晴らしさに気づくべきだと思うよ」

Jun「同感。そして、苦手とする表現方法は海外から学んで取り入れるべき。そうすれば国際的にも国内的にも、公平な評価を得られるはずだよ。僕は今が、その絶好のチャンスだと思うね」

Backnumber

トミタ・ジュン氏とサリーム

JAZZWARE


サリーム・ダロンヴィル

英マンチェスター大学卒業後、マルベリー社やマッキントッシュ社でクリエイティブディレクターを歴任。その後、英国貿易産業省のエクスポートプロモーターとして、数多くの英国人デザイナーや英国ブランドの日本進出をサポート。2003年よりオリヒカのクリエイティブディレクターに就任。